正社員の半数近くが、静かに働いている

決められた仕事は、きちんとこなす。締め切りは守るし、品質にも問題はない。ただ、それ以上のことはしない。会議で自分から手を挙げることも、飲み会に顔を出すことも、昇進を目指すこともない。定時になれば、静かに帰る。

やりがいやキャリアアップは求めず、決められた仕事を淡々とこなす。いわゆる「静かな退職」と呼ばれるこの働き方が、もはや一部の例外ではなくなりつつあります。マイナビが2026年4月に発表した最新の調査によると、静かな退職を「している」と答えた正社員は46.7%。前年から2.2ポイント増え、20代では50.5%と半数を超えました。30代も49.1%。若手に限った現象かといえばそうでもなく、50代でも46.7%にのぼります。しかも実施者の73.7%が「今後も続けたい」と答えており、一時の流行語ではなく、働き方の一つとして根を下ろし始めています。

管理職の方からは、戸惑いの声をよく聞きます。「頑張れ、とは言いにくい時代になった」「無理に火をつけようとすれば、ハラスメントと紙一重になる」。その感覚は正しいと思います。ただ、この46.7%をひとまとめに「困った現象」と見るのも、逆に「多様な働き方」と一括りに容認するのも、どちらも実態を見誤ります。数字の中身が、一枚岩ではないからです。

静かな退職には、二種類ある

同じ調査は、静かな退職を始めたきっかけによって、実施者をいくつかのタイプに分けています。これが示唆に富んでいます。

最も多いのは「無関心タイプ」(20.6%)。そもそもの価値観として、キャリアの上昇に関心がないタイプです。次いで「損得重視タイプ」(18.8%)。管理職になって増える責任と、それで得られる報酬とを天秤にかけ、現状維持のほうが割に合うと判断したタイプです。注目したいのは、この二つのタイプの仕事満足度はむしろ高いということです。自分の価値観で選び、その選択に納得している。家庭や趣味や副業に重心を置きながら、引き受けた仕事はきちんと果たす。契約としては、なんら不誠実ではありません。

企業の側も、この現実を受け入れ始めています。同じ調査で、中途採用担当者の42.2%が静かな退職に「賛成」と回答し、反対(30.1%)を上回りました。前年より3.3ポイント増えています。「人それぞれに合った仕事をしてほしい」「決められたことを確実にこなす社員がいてこそ経営が成り立つ」。賛成の理由として挙がった声は、現場の実感としてよく分かるものです。ここまでは、働き方の多様化として尊重すべき領域でしょう。

問題は、残りの二つです。「評価不満タイプ」(17.0%)は、努力しても評価や処遇に反映されないという不満がきっかけで静かになったタイプ。「不一致タイプ」(16.0%)は、職場や仕事への期待と現実のズレから意欲を失ったタイプです。合わせると33.0%、静かな退職をしている人のおよそ3人に1人にあたります。そしてこの二タイプは、先の二つと対照的に、仕事満足度が低く、「本当は続けたくない」と感じている割合が高いのです。

つまり、同じ静けさの中に、「選択した静けさ」と「諦めとしての静けさ」が同居しています。前者は本人の意思であり、外からとやかく言う筋合いのものではありません。後者は違います。かつては貢献したい気持ちがあったのに、職場との関係の中でそれが折れてしまった人たちです。そして経営にとっての損失は、ほぼすべてこちら側で起きています。

諦めは、突然生まれない

では、諦めとしての静けさは、どこから来るのでしょうか。

同じ調査の企業側データに、手がかりがあります。異動や転勤は「会社の指示が強い」が41.9%で、「個人の希望が強い」(12.4%)を大きく上回ります。評価の目標設定は33.7%の企業で「会社や上司の決定」として下りてきて、27.6%の企業では評価基準や結果がそもそも公表されていません。自分の配属が、自分の与り知らないところで決まる。頑張りがどう評価されたのか、理由の説明もない。そういう構造の中に長く置かれた人が、あるとき期待するのをやめるのは、むしろ自然なことです。

思い出してほしいのは、諦めた人の多くが、最初は声を上げていたということです。提案をして、流された。改善を求めて、変わらなかった。評価に納得できず理由を尋ねて、「総合的な判断だ」としか返ってこなかった。一つひとつは些細なやり取りです。しかし、こうした「応答のなさ」が何度か積み重なったとき、人は学習します。この職場では、声を上げても何も動かない、と。

怒りや不満なら、まだ表に出ます。退職願という形で目に見えることもあります。しかし諦めは音を立てません。エンゲージメントサーベイの自由記述欄にも、諦めた人は何も書きません。書いても無駄だと、すでに学習しているからです。離職率のような目に見える数字にも表れません。辞めないからです。だからこそ、気づいたときには職場のあちこちに広がっている。静かな退職が厄介なのは、この「静かさ」そのものにあります。

一つ、急ぐべき理由も添えておきます。調査では、静かな退職を「続けたくない」と答えた割合は20代で最も高く、約3割にのぼります。若い世代の諦めは、まだ固まりきっていないのです。関わり方次第で戻る余地が残っているうちに手を打つか、諦めが習慣になるまで放っておくか。時間は、どちらかといえば敵側にいます。

無関心に、無関心で返さない

だとすれば、組織がやるべきことは「社員全員をもう一度熱くする」ことではありません。選択としての静けさは尊重する。そのうえで、諦めとしての静けさを、これ以上つくらないことです。

第一歩は、二つの静けさを見分けることです。ただし、これは制度やサーベイでは判別できません。同じ「どちらでもいいです」という返事でも、納得ずくの割り切りなのか、期待の停止なのかは、日々その人と接している人間にしか分かりません。会議で発言しなくなったのは、いつからか。「大丈夫です」の声のトーンは、以前と同じか。かつてよく提案をしていた人が、この半年、一度も何も言っていないのではないか。相手の変化に気づき、関心を向け、小さな声にきちんと応答を返す。地味ですが、これは相手の感情の動きを察知する力、EQと呼ばれる領域の日常的な行動です。

そしてもう一つ、評価や処遇について、結果だけでなく理由を説明するという応答も、同じくらい効きます。希望が通らないことは、組織である以上、避けられません。けれども「なぜそうなったか」を説明される経験と、黙って結果だけを渡される経験とでは、残るものがまるで違います。人が諦めるのは、希望が通らなかったときではなく、自分の声が初めから聞かれていなかったと知ったときだからです。

静けさを、満足のサインと読み違えないこと。声を上げなくなった人を、手のかからない人と数えないこと。無関心に見える相手に、こちらまで無関心で返さないこと。46.7%という数字への向き合い方は、突き詰めればこの三つに尽きるのだと思います。

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