学んだことが、現場に着地しない

いい研修だった、と受講者が言う。アンケートの満足度も高い。ところが三か月後、現場は何も変わっていない。人材育成に関わる方なら、一度は経験のある光景だと思います。

研修の成否は、受講者本人だけで決まるものではありません。学んだことを現場で試せるかどうかは、職場に戻った瞬間の環境に大きく左右されます。なかでも影響が大きいのが、受講者の上司であるマネージャーの関わり方です。研修で新しい考え方ややり方を学んでも、戻った先で「そんなことをしている時間はない」「今まで通りでいい」と言われてしまえば、試すこと自体が難しくなります。研修が定着しない背景には、内容の問題以前に、マネージャーの関与が最初から想定されていないという設計の問題があるのです。

マネージャーに必要なのは、内容の理解ではなく一言

といっても、マネージャーに研修内容を細かく理解してもらう必要はありません。重要なのは、研修後に部下が何かを試そうとしたとき、「一度やってみよう」「結果は後で一緒に振り返ろう」と声をかけられるかどうか。この一言があるだけで、受講者は学んだことを業務で使いやすくなります。

では、その一言が出るマネージャーと出ないマネージャーは、何が違うのでしょうか。研修への理解度でも、育成への意識の高さでもないように思います。違いは、その瞬間に自分と部下の感情をどう扱っているか、つまりEQの働きにあります。

「今まで通りでいい」という言葉の裏には、たいていマネージャー自身の感情があります。やり方を変えられて現場が乱れたら困るという不安、目の前の数字への焦り、慣れたやり方が崩れることへの抵抗感。それ自体は自然な感情です。問題は、その感情に気づかないまま口に出してしまうと、「忙しいから」というもっともらしい理屈の形で、部下の試行を止めてしまうことです。

一方、研修から戻ったばかりの部下は、変わろうとする意欲と、うまくいくだろうかという不安が同居した、いわば感情の芽が出かかった状態にあります。この芽は強くありません。最初の一言で伸びもすれば、枯れもする。マネージャーの「やってみよう」は、業務上の許可である以上に、この不安定な感情への応答なのです。

失敗を責める職場では、人は無難に戻る

組織の側にも同じ構図があります。新しいやり方を試してうまくいかなかったとき、責められる職場では、受講者は二度目を試しません。研修で何を学ぼうと、無難な行動に戻る方が安全だからです。うまくいかなかった経験を、責める材料ではなく振り返りの材料として扱う。この姿勢が組織の中で共有されているかどうかは、研修プログラムの中身と同じくらい、成果を左右します。

人事や研修担当者にできることもあります。受講者本人だけでなく、マネージャーに事前にひとこと共有しておくのです。「研修後、部下がこの業務のやり方を少し変えるかもしれません」「最初は時間がかかるかもしれません」。これだけで、マネージャーは不意を突かれずに済みます。人は予期していなかった変化には身構えますが、予告された変化には案外寛容です。マネージャーのEQに期待する前に、EQを発揮しやすい状況をつくっておく、という発想です。JapanEQのような検査で受講者やマネージャーの行動傾向をあらかじめ把握しておくと、こうした事前のすり合わせは格段にやりやすくなります。

研修を根付かせるのは、その後の「日常」

同じ研修プログラムでも、成果には職場ごとにはっきり差が出ます。差を生んでいるのは多くの場合、研修の中ではなく、戻った先の「日常」です。試す余地があり、振り返る時間があり、それを支える上司の言葉があるか。

いま、研修に問われているのは内容の新しさだけではありません。学びを受け止める側の、感情の土台です。次の研修を企画するときは、プログラムの中身と同じ熱量で、受講者が帰っていく職場のことを考えたい。研修を根付かせるのは、いつだって研修の場ではなく、その後の「日常」なのですから。

EQコラム

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